彼は、出会ったころからとても冷たい男だった。
私が彼の心を開こうとするたび、常に冷気を発し、彼と向かい合うだけで私まで冷え冷えとする。
彼は氷が好きで、温かい飲み物が苦手な人。
とても冷たいけど、私にはなくてはならない人だった。
でも、最近、彼もオトナになったのか、少しずつ温かくなってきていた。
私は悟った。
彼の余命は、あと数日だということを。
もともと「自分の寿命は10年だ」と聞かされていた。
あれからすでに18年。
予定より倍近く長生きした彼は、ついさっき・・・天命を全うした。
長年、彼に預けてあったものをすべて返してもらった。
思い出の品々が山のようになった。
でも、思い切って、すべて捨てた。
もう、忘れよう。
そう思いながら。
別れの儀式として、私は彼の体を拭きあげた。
サヨナラ。
18年、ありがとう。
迎えの車に載せられて行く彼を見送ったあと、私は新しい彼を見上げながら「ヨロシクネ」と声をかけた。
亡くなった彼よりも省エネだけど、やっぱり冷たい男。
名前は冷蔵庫。彼の寿命も10年らしい。